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第71話 お願いねぇ……

last update Last Updated: 2025-07-30 12:05:40

「とりあえず荷物を置こうか」

「あ、うん……」

 これは俺も予想してなかった。まぁ兄妹なのだから同じ部屋になっても不思議ではないんだけど、これまでの俺の人生で伊織と二人きりの部屋に寝るいうシチュエーションは無かった。こういう時どうしたらいいか困る。

「「あの」」

――こういう時にハモッちゃうあたりは兄妹《きょうだい》ぽいんだけどなぁ。

「あ~と、伊織がお先にどうぞ」

「え、あ、と、その、わ、私は別にだいっ丈夫だよ。うん」

「そ、そうか……まぁ伊織がイイなら俺も別にいいんだけどな。兄妹《きょうだい》だし」

「そ、そうだよ!! 兄妹なんだよ!! やだなぁお義兄《にい》ちゃんって何言ってるのかなぁ」

 わたわたと荷物を下ろしたり持ったり繰り返してるって事は、伊織もまだかなり動揺してるみたいだな。

――俺は特に何も言ってないんですけどまぁいいや……

 それにこの家に入ってから感じるこの空気感の事を少し伊織にも話しておいた方がいいかもしれない。

「伊織」

「ぴゃぅ!!」

――ぴゃぅ!! ってなんだよ。声かけただけでそんなにビックリしなくてもいいのに、兄ちゃんちょっとショックだぞ。

「ご、ごめんお義兄ちゃん。なに?」

「あ、うん。伊織は本当に大丈夫なのか? けっこう俺は感じてるんだけど」

「う~ん」

 アゴに手をにせて考え出す伊織。

――考え込むことで少し落ち着いたかな?

「私はそんなにつらくなるほどじゃないんだけど、お義兄ちゃんはどんな感じなの? 感情とか流れ込んできたりしない?」

「感情……か。そうだな。なにかいろいろなものが混ざった感情が流れてきてはっきりとは言えないけど、一番強いのは「帰りたい」そう思ってるみたいだな」

「帰りたい……か」

「母さんは何か言ってこないか?」

「残念だけど、こ
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